「ふなばし森のシティ」の取り組み

※この記事は、2017年に作成しました。

野村不動産グループが目指す“自走式”都市型コンパクトタウン

野村不動産グループでは、少子高齢化など社会構造の変化を見据え、多機能性かつ高い利便性を有する「都市型コンパクトタウン」戦略の推進にいち早く取り組んできました。「都市型コンパクトタウン」とは、住宅やオフィス、商業施設、公共施設、病院、シニア向け施設など、さまざまな機能を凝縮した街のことを指しますが、当社グループが考える街づくりは、そうしたハード面だけに着目したものではありません。
住む人、働く人、訪れる人が能動的にその街に関わることによって、生きがいとやりがいを感じることのできる、「自走的に進化していく街づくり」を目指しています。

目指すべきコミュニティ形成に向けて

Q. プロジェクト参画時の想いはどのようなものだったのですか?

曽田:「ふなばし森のシティ」(以下、本プロジェクト)は、工場跡地を含む約17ヘクタールの再開発プロジェクトとして、2011年に着工し、2014年に竣工しました。約1,500戸の住宅に加え、商業施設、医療施設、保育施設を備え、5つの公園・緑地を配置し、住民はもとより周辺地域住民にも貢献する街として、竣工から3年経った今も変わらず多くの方々に愛着を持っていただいています。
本プロジェクトは、不動産デベロッパーとしての経験を高めるために、挑戦するという当社の狙いも含め、計画策定段階から、船橋市と協議を重ね、多世代の暮らしを豊かにするコミュニティ重視の街づくりを目指しました。その折、東日本大震災により、安定したエネルギーインフラと、都市におけるコミュニティ内の連携の必要性が改めて浮き彫りとなります。当社としても2007年、住まいへの「愛着度調査」(図①)を実施し、その結果から、より愛着を持って暮らしていただくためには、購入時に検討していた条件以上に、入居後の住民同士の交流やコミュニティ形成が鍵となることを掴んでいました。
これらを踏まえ、当時最新の環境技術やITネットワークを駆使した都市基盤(スマートシティ)を形成する一方、住民の絆(シェアスピリット)を育む場を提供する「スマートシェア・タウン構想」を策定し、開発がスタートしました。
私が着任したタイミングは、販売が行われる前のことです。入居後に住民の皆さまに働きかけ、住民主体のコミュニティ形成を実現することが私のミッションでしたが、住民にご満足いただける街の運営ができるのか、お客さまと直接接点を持つことで、開発したマンションへの不満を拾うのではないか、と懸念する社内の声も少なくありませんでした。また、私自身、人付き合いを強制されることが苦手な面もあって、住民の皆さまに地域との連携を促すことに抵抗がありました。その折、東日本大震災の被災地のことを真剣に考え、具体的なアクションを起こす社会的機運が高まりましたが、そのような「他人を思いやる気持ち」を風化させたくないという想いがあり、当社が目指す街づくりと確実につながるはずだと考えるようになってから視界が変わりました。人付き合いを負担に思う私だからこそ、目指すべきコミュニティの形成に最短距離で到達できるのではないかと考えるようになりました。

曽田 朋恵

野村不動産(株)
住宅事業本部 商品戦略部
商品戦略課 担当課長
1999年入社。マンションの商品企画などを経て、2012年より「ふなばし森のシティ」プロジェクトに参画。

活動支援後も自走する街づくりを目指して

Q. コミュニティ形成において意識したことは何ですか?

曽田:コミュニティ形成と聞いて多くの方は「イベント」を連想しますが、イベントに参加者として参加しているだけではコミュニティは醸成されません。住民にとって必要なものは日常でも継続して行われるコミュニケーションであり、私たち事業者の活動支援終了後も、活動が継続されることを目指しました。
まず実施したのが、「森のシティ街づくり協議会(現 森のシティ自治会)」の設立です。設立後3年間は、当社が活動を支援し、4年目以降からは住民と地元企業による自主運営となります。2017年はその4年目にあたり、当社の支援は終了していますが、住民と企業による夏祭りや清掃活動など継続した活動が行われています。

2013年 クリーン・グリーン活動

支援した3年間で、最も難しかったのが住民の自主性の醸成です。事業者が過度に運営を主導すれば、住民自身の主体性を奪いかねません。一方で、住まいをご購入いただいた「お客さま」に、入居後に「森のシティの住民」なのだから協議会の運営は住民がすべきだと主張しても賛同していただくのは難しいでしょう。事業者としてコミュニケーションの難しさを感じた点でした。この壁にぶつかった時、事業者としてどのような想いでこの街を作ったのかをお伝えし、街づくり協議会では、「この街をより良くする場を作りました。皆さまはどのように活用したいですか。何ができますか」といった説明に切り替えました。このアプローチによって皆さまの受け取め方は大きく変化したように思います。入会はもとより、住民自らの主体的なアクションが見られるようになりました。現在、自治会の運営は住民と地元企業によって主体的に運営されていますが、主体を住民に戻す日々のコミュニケーションの重要性は大きな発見でした。

試行錯誤を繰り返す上で、外部の方のご意見も積極的に取り入れました。特に、協議会を運営する事務局に参画していただいた、自治運営に詳しい外部の協力会社の方のアドバイスは極めて有効でした。私自身が住民であったら感じるであろう疑問を一点一点、確認するように打ち合わせを行いました。結果、私たちが目指す街づくりや資金計画など、将来のビジョンを住民へスムーズに説明することができたように思います。当社内にも前例がないことだからこそ、住民の視点に常に立ち返ることで最適解に辿り着くことができました。結果として私の説明に説得力が生まれたと思います。

また、協議会の運営そのものも工夫しています。活動の継続を担保すべく、運営費用の在り方を整理しました。事業者として当社も協議会設立のための人的コストや、初期の交流イベント開催費などの費用を負担しましたが、活動支援期間の3年間のみの負担とし、防災・緑化・環境美化など公共性が高く、当社支援終了後も継続する活動は、住民および地元企業からの会費で現在賄われています。今後の活動の協議や運営事務については、住民自ら人的負担を担うことで、エリアマネジメントを維持していく仕組みです。活動の継続が担保されるよう、住民にとっても地元企業にとっても過度の負荷とならないような運営も、継続性を担保する大きなポイントだと考えています。

意識を醸成し、導入した技術以上の効果を出す

Q. 環境対応において、工夫したことを教えてください。

曽田:住民の主体性の醸成は、環境面でも大きな成果を生み出しました。いくら先進の環境技術を導入していても、一般的に、義務感からの省エネは持続しないといわれています。ここも、住民自らが、環境への意識を持続的に持ち、街のビジョンとして「緑を育む」「自然の力を活かす」「省エネ」を共有し合う仕組みが必要だと考えました。この考えに基づいて作成した環境プログラムを通じて得られた発見が、住民にとって大きなモチベーションになっていると手応えを感じています。例えば、グリーンカーテンをバルコニーで育成する活動は、2013年夏時点で全世帯の約半数にあたる240世帯が参加したほか、グリーンカーテンをきっかけに園芸活動グループが設立されるなど、まさに自走式にコミュニティが広がっています。

「ふなばし森のシティ」には先進の環境技術が導入されているだけでなく、住民の省エネ意識の醸成を図り、住民参加型の省エネルギー実証を行っている点が特徴です。実際、500世帯を対象に、電力使用量の削減とピークカット効果を検証した際、環境技術の導入で期待された省エネ効果以上の成果が出たことがわかりました。電力利用状況を「見える化」するモニターの専有部への設置や、利用者が世帯内でピークシフトを行うと、電気料金が安くなる料金体系の導入に加え、各世帯向けにカスタマイズしたアドバイスにより、住民の意識と行動の変化が、成果(図②)に表れました。

現在、スマートシティ構想を推進している世界各国からの視察が増えています。視察の際、真っ先に興味を持たれるのが、このエネルギーマネジメントに関する点ですが、ハード面で供給やエネルギー使用量を減らす工夫だけでなく、住民の意識と行動の変化に特に大きな共感を寄せられます。異なる価値観を持った人々がともに助け合い、豊かに暮らしていくために直面する課題は、どこの国でも同じであり、その解決の糸口として、私たちが得た知見を役立てていけたらと考えています。

仏エコカルティエ認証と街のこれから

エコカルティエ認証「20の指標」

曽田:このような取り組みが評価され、2016年にフランス政府住宅・持続的居住省が推進するエコカルティエ認証(環境配慮型地区認証)を、フランス国外では世界で初めて取得しました。エコカルティエ認証とは、持続可能な街づくりを目指した、主に自治体を対象とした認証制度です。2012年の制度の設立以降、800を超えるフランスの都市が賛同し、353プロジェクトがエントリーし、51プロジェクトが認証を受けるなど、フランスにおける街づくりを推進する制度として高い実績を誇ります。

審査にあたり、その理念を示すエコカルティエ憲章に沿った20の指標が設けられています。それぞれの指標には、具体的な数値目標などはなく、申請者が地区を読み解き、実施内容を定め、その成果を分析することが求められます。また、行政を対象としているため評価指標は多岐にわたり、認証取得は、デベロッパーとして総合的な街づくりへの評価といえます。そして、2017年10月には当社グループの高齢者向け住宅の第1弾「オウカス船橋」が「ふなばし森のシティ」近接地に開業します。私たちは、街づくりに必要なピースとして、地域の方に安心してご利用いただける高齢者向け住宅の運営にも取り組んでいきます。

本プロジェクトで愚直に取り組み、生み出した成果が示すとおり、当社はデベロッパー視点に加え、お客さま視点でも一つひとつの課題に取り組む誠意と熱意を持っています。オフィスや商業施設でも通じるこのアプローチは、ひいては日本や海外が直面する社会的課題の解決に迫ると確信しています。当社の企業としての競争力は、街づくりを通じての社会的価値の創出と同じベクトルにあると考えています。

「ふなばし森のシティ」における街づくりの成果

外部評価

エコカルティエ認証(環境配慮型地区認証)
フランス政府住宅・持続的居住省が推進する「エコカルティエ認証」(環境配慮型地区認証)を、フランス国外では世界で初めて取得。
「ワールドスマートシティ・アワード」を受賞
「スマートシェア・タウン構想」という継続的環境価値を創出する取り組みが高く評価され、スマートシティエキスポ国際会議 2013において、プロジェクト部門賞を受賞。

ステークホルダーのコメント

居住者同士が「連携」し合う風土の重要性

篠原 聡子
篠原 聡子
野村不動産ホールディングス社外取締役
日本女子大学家政学部住居学科教授
空間研究所代表取締役
建築家、研究者として集合住宅における
共用空間の在り方について豊富な知識、
経験と幅広い見識を有する。

社外取締役であること以外に、建築の設計と、大学の教員としての仕事があるわけですが、その中で特に近年は、アジアや日本の団地や街における居住者の生活を調査しています。その中で理想的なコミュニティにいくつか出会いました。例えば、千葉県千葉市稲毛区にある当社が手掛けたコープ野村園生というところは、エレベーターがないのですが、自治会で改修の検討を重ね、エレベーターをつけても構造的にバリアフリーにならないのであれば、有事の際には若い世代が高層階に住む高齢者を背負って下ろそうということを決定しました。ハードだけに頼らず、ソフトで対応しようとする姿勢に感心しました。世代問わず、コミュニケーションがとれているため、愛着度が高く、長く住み続ける人が多い団地です。ほかにも、居住者の大半がそのマンションに愛着を持っており、中古で売り出されても即成約となるなど、まさに立地を超越した魅力や価値が備わった団地もあります。一方その逆に、子育て世代には住みやすくても、高齢者には住みにくいと不満を耳にする集合住宅や、人の入れ替わりが激しく、居住者同士のコミュニケーションがあまりないという事例もありました。

こうした調査を続ける中で、やはり、不動産会社は箱を作ることはできても、居住者が安心して長く住み続けるには、居住者自身が主体的に連携していかなくてはならないのだと知ることができました。企業の社風のように、人の定着度合いを左右する街の風土というのもあるのかもしれません。大規模な集合住宅の計画では、短期間に街を作るようなものですから、結果的にその場所の価値になっていくのだと思います。 「ふなばし森のシティ」はそうしたつながりを具現化したプロジェクトではないでしょうか。このプロジェクトに関わっていた曽田さんが、当社や私が行ってきた調査の結果を踏まえて、居住者同士の連携を促す仕組みを考えることはもちろん、居住者に街づくりへの自主性と責任感を持ってもらえるよう働きかけているのが印象的でした。また、「分譲後」も関わり続けたのがポイントで、分譲する前から、理想の街を意識しすぎると、サービスが過剰になるばかりで、逆に理想から遠ざかってしまう懸念があります。例えば、「ふなばし森のシティ」では、分譲から約4年経った2017年10月に、サービス付き高齢者住宅(サ高住)を開業する予定ですが、少し期間を空けながら順次価値を付与していくのが実は理想的な進め方で、やはり居住者同士が連携し合う風土がないまま一気に開発しても、ある時、巨大なゴミを生み出す結果になってしまうと思います。 もちろん、街づくりにはソフトの面だけでなく、ハード面でもさまざまな工夫が必要です。例えば、マンションの共用出入り口に顔となるような格式のあるエントランスホールを作ることも重要な要素ですが、居住者同士の挨拶や立ち話が自然と生まれるような家具の配置も同様に重要だと考えます。また、いくら中庭が美しく和むものであっても、安心・安全のために周辺を高い壁で覆ってしまったら、その周辺環境に対してはネガティブな要素となり、街の価値を上げることはできません。その場合は、中庭に続くゲートを時間で管理するなどの工夫で周辺環境や街と連携することを考えてほしいと思います。

不動産会社は、空間に責任を持つだけではなく時間に責任を持つことが非常に重要

当社には、製販管一体の体制がありますが、連絡すればだいたいのところはすぐ視察に行けたので、その一連の体制が機能していることを実感しました。さらに、管理会社が吸い上げた情報が、開発部門にタイムリーにフィードバックされる体制が機能していると思います。また、コミュニティにいち早く着目するなど、先見性を持って他社よりも早く有用な知見を蓄積しているわけですから、その知見を武器にもっと仕掛けていくべきです。例えば、マンションを軸にした街づくりだけでなく、戸建てを軸にした街づくりがあってもいいかもしれません。また、居住空間も3LDKが標準であり続ける時代はそろそろ終わるでしょう。子供が独立し、夫婦2人暮らしになった時、住宅スペースの一部を夫婦の居住部分と切り離し、他者に間貸ししたり、定年退職後に夫や妻のSOHOスペースとして、居住スペースから独立させて活用していくといった1住宅1家族にとらわれない発想も必要になってくると思います。残念ながら、日本では、住居の一部を他人に貸すことは法律的な制約があります。しかし、住まいの現状をよく知る当社の現場のほうから、行政を動かすような政策を提言しても良いでしょう。
不動産会社は、空間に責任を持つだけではなく時間に責任を持つことが非常に重要で、その視点がないと長期的に価値ある会社として生き永らえていくことができないと思います。客観的に見て、当社は建築に精通した人材が他社に比べて多いこともあって建物のこだわりが極めて強く、仕事ぶりもとても丁寧です。超えるべきハードルはいくつもありますが、そうした強みを大いに発揮しながら、「コミュニティ」として代名詞となるような伝説的な場所を当社にはぜひ作ってほしいと思っています。

サステナビリティ