

はじめに(現状認識と自然資本に対する考え方)
自然への認識
世界では、自然・生物多様性の損失が深刻化し、その影響が懸念されています。世界経済フォーラム(WEF)の試算によれば、世界で創出された総GDPの半分以上の経済価値が、自然資本に依存しており、その自然資本の劣化は社会経済の持続可能性に対する明確なリスクとされています。2022年12月に開催された生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)では、「昆明・モントリオール生物多様性枠組」が採択され、2030年ミッションとして「生物多様性の損失を止め反転させる」すなわち「ネイチャーポジティブ(自然再興)」が掲げられました。
このような動きと合わせて、各企業の自然関連のリスク・機会を適切に評価できるような世界共通のフレームワークを提示するため、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース、Task Force on Nature-related Financial Disclosures)が設置されました。TNFDは、2019年世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で着想され、国連環境計画金融イニシアチブ(UNEP FI)、国連開発計画(UNDP)、世界自然保護基金(WWF)、イギリスの環境NGOグローバルキャノピーにより、2021年6月に設立された国際的な組織です。TNFDは、2023年9月に最終報告書を公表し、企業に対して自然関連情報を開示することを求めています。
当社グループの方針
当社グループでも、2030年までの重点課題(マテリアリティ)の一つとして、「生物多様性」を選定し、各種取り組みを推進するとともに、上述のTNFDの理念に賛同し、2022年7月にTNFDフォーラムへ参画しました。TNFDフォーラムへの参画を通じ、今後もあらゆる事業活動において生物多様性への影響を把握し、その保全・再生に向けた取り組みを推進していきます。
また、当社グループでは、2050年のありたい姿としてサステナビリティポリシー「Earth Prideー地球を、つなぐー」において、「自然との共生」を私たちが大切にするテーマとして掲げています。
自然資本に対する考え方・方針
当社グループは、土地や様々な自然資本を利用して事業活動を行っており、生態系の崩壊はステークホルダーの皆さまの生活環境や事業環境を悪化させるリスクにつながると認識しています。こうしたリスクに対しては、当社グループの全体として、国内の森林循環を回復し、多様な生物が生息できる都市緑化や森林整備を通じた自然環境の保全に貢献していく方針です。
事業活動においてグループ全体で生物多様性への配慮を行うとともに、各種環境関連法令への対応を適切に行い、生物多様性に配慮した開発に努めています。適宜企画の段階から行政をはじめとしたステークホルダーと協議し、影響軽減の対策や自然環境の修復に努めます。また、環境省を事務局とする「生物多様性のための30by30アライアンス」への加盟を踏まえて、2030年までに国土の30%以上を自然環境エリアとして保全する事に貢献してまいります。
さらに、ネイチャーポジティブの実現に向けた事業活動を促進するため、「野村不動産グループ生物多様性方針」を策定しております。
ガバナンス
当社グループは、サステナビリティ活動の一層の強化・推進を図るために、2020年4月にサステナビリティ推進部の新設、及び「CSR委員会」から「サステナビリティ委員会」に改称し、2021年4月より野村不動産ホールディングス代表取締役社長兼グループCEOが委員長を務めています。
サステナビリティ委員会では、自然・生物多様性を含むサステナビリティ方針とその目標に対する進捗状況の確認、及び活動計画の審議を行っています。また、審議内容については、定期的に取締役会及び経営会議に報告され、経営計画や事業活動に反映・監督される体制としています。今後、自然・生物多様性関連の依存・インパクト、リスク・機会に関する対処方法については当社グループでの議論を深め、具体的な指標や目標の設定、また進捗を監視及び監督する方法の高度化の検討を進めてまいります。
なお、2024年3月期は、3回実施したサステナビリティ委員会にて、各重点課題(マテリアリティ)の推進として5つのマテリアリティ(「生物多様性」を含む)等に関する審議を実施しました。あわせて、環境分科会を含む分科会を計9回開催しました。引き続きこの方針に沿ってPDCAサイクルを回し、サステナビリティ活動を推進していきます。TNFD開示の内容については、2024年3月期、及び2025年3月期の取締役会及びサステナビリティ委員会にて報告を行っております。

上記体制に加えて、自然・生物多様性を含むサステナビリティ関連の取り組みに関しては、外部の専門家の知見を参考にしております。
また、当社の自然・生物多様性関連の依存・インパクト、リスク・機会の影響を受けるステークホルダーとのエンゲージメントも実施しております。エンゲージメントの実施状況については、今後開示をしてまいります。
戦略
当社グループは、TNFDガイダンスのLEAPアプローチに沿い、自然への依存・インパクトを分析しました。その上で、それらが当社グループにとってどのようなリスク・機会をもたらしうるかを検討し、リスク・機会をとらえる戦略と施策を検討・実施しています。
分析の評価対象範囲
当社グループは、住宅部門(マンション・戸建住宅の開発・分譲、賃貸マンションの開発・賃貸・販売、ホテルの開発・賃貸・運営等)、都市開発部門(オフィスビル・物流施設・商業施設等の開発・賃貸・販売・運営受託等)、海外部門(海外における開発・分譲・賃貸等)、資産運用部門(上場・私募REIT・私募ファンドを対象とした資産運用等)、仲介・CRE 部門(不動産の仲介・コンサルティング等)、運営管理部門(マンション・オフィスビル等の運営・管理・工事請負等)、その他より構成されます。TNFD開示の初年度である今回は当社グループの一部事業部門に絞り込んだ上で、初期的に分析に着手しました。分析対象としては、当社グループにとって主要な事業であり、かつ、自然への影響が大きいと考えられる事業を選定することとし、売上高・事業利益の上位2部門であり、かつ、開発を伴うことから自然への影響が特に大きいと考えられる住宅部門と都市開発部門を選定しました。これらの2部門は、合計で売上高・事業利益の7割強を占めます。
今回分析対象とした住宅部門と都市開発部門の具体的な事業活動は、各事業活動と自然資本の関係性について定性的な評価を実施し、特に大きな関わりがあると考えられる段階を検討し、「用地・物件取得、資産調達」「商品企画・設計」「事業推進」「保有(運営・賃貸)」を本分析の評価対象としました。
今回の定性評価にはおいては、バリューチェーンにおける上流に該当する住宅・都市開発部門の「用地・物件取得、資産調達」「商品企画・設計」「事業推進」および直接操業に該当する「保有(運営・賃貸)」が、自然資本との関係の度合いが相対的に高い(中程度以上)と判断し、本分析の評価対象としております。
事業活動 (住宅部門、 都市開発部門) |
バリューチェーンの 区分 |
細目 | 自然との関わりの評価結果 | |
---|---|---|---|---|
関わりの度合い | 評価内容 | |||
用地・物件取得 資産調達 |
上流 | ・物件調査 ・不動産鑑定 ・環境調査 ・交渉・入札 ・契約 ・資金調達 |
中 | 用地・物件の取得により、周辺の自然環境にインパクトを与えることが決まる。 |
商品企画・設計 | 上流/直接操業 | ・お客さま・地域コミュニティへのアンケート ・商品企画 ・設計・デザイン |
中 | 商品企画、設計・デザインにより、開発・保有(賃貸)時の自然環境へのインパクトが決まる。 |
事業推進 | 上流/直接操業 | ・施工管理 ・品質管理 ・コスト管理 ・近隣説明会 |
高 | ・開発(施工)において周辺の自然環境にインパクトを与える。 ・建築資材の原材料の調達において自然にインパクトを与える。また、自然資源に依存している。 |
・施工 ・原材料調達 |
高 | |||
営業 | 直接操業 | ・マーケティング ・ホームページ、パンフレット作成 ・広告 ・重要事項説明 ・契約 |
低 | ー |
保有 | 直接操業 | ー | 中 | 保有(賃貸)物件の存在や汚染物質、廃棄物の発生が周辺の自然環境にインパクトを与える。 |
売却 | 下流 | ー | 低 | ー |
凡例)関わりの度合い
-
- 高…
- 自然環境に大きく依存している、あるいは大きなインパクトを与える可能性がある事業活動
-
- 中…
- 自然に一定程度依存している、あるいは一定程度のインパクトを与える可能性がある事業活動
-
- 低…
- 自然との関わりがほとんどないと考えられる事業活動
-
- …
- 本分析の評価対象
依存・インパクト関係の分析
本分析の評価対象とした事業活動(「用地・物件取得、資産調達」「商品企画・設計」「事業推進」「保有」)について、自然に対する依存・インパクト評価ツール「ENCORE※1」を用いて、自然への依存※2・インパクト※3関係を分析しました。「ENCORE」は、自然関連リスクへのエクスポージャーを調査し、自然への依存とインパクトを理解するツールとして、TNFDガイダンスや、環境省から推奨されているツールであり、当社グループの不動産セクターの依存・インパクトも把握できることから採用しております。
「事業推進」については、自然との関わり方の観点から、「施工監理、品質管理、コスト管理、近隣説明会」「原材料調達」「施工」の3つに分けて分析を行いました。この内、「原材料調達」に関しては、当社グループにとって重要な原材料である鉄鉱石、砂、石灰石と、木材を対象に分析しました。これらの分析対象については、ENCOREで分類されるSub-industriesとProcessを参照し、自然の依存・インパクト関係を分析しております。
事業活動 | ENCOREのSub-industries | ENCOREのProcess |
---|---|---|
用地・物件の取得 資産調達 |
Real Estate Development | Real estate activities |
商品企画・設計 | Construction & Engineering | Infrastructure builds |
事業推進(施工監理、品質管理、コスト管理、近隣説明会) | Real Estate Development | Real estate activities |
事業推進(原材料調達:鉄鉱石、砂、石灰石) | Diversified Metals & Mining | Mining |
事業推進(原材料調達:木材) | Forest Products | Production of forest and wood-based products |
事業推進(施工:住宅の建設) | Homebuilding | Construction |
事業推進(施工:オフィスビルの建設) | Construction & Engineering | Infrastructure builds |
保有(運営・賃貸) | Real Estate Operating Companies | Real estate activities |
ENCORE(Exploring Natural Capital Opportunities, Risks and Exposure)は、国連環境計画世界自然保全モニタリングセンター(UNEP-WCSC)等が開発した、自然に対する依存・インパクト評価ツールを指す。潜在的な自然への依存・インパクトのリストやフロー図等を入手することができる。
依存とは、事業活動が依存している生態系を指す。
インパクトとは、事業活動が自然に与える影響を指す。

ENCOREによる分析を通じて、当社グループの事業活動の「依存」面については、供給サービスの「地下水」「地表水」等への依存が、「インパクト」面については、「生態系の利用」「攪乱」「水の使用」「GHG排出」「汚染物質」「固形廃棄物」と多岐にわたって影響が確認されました。その中でも特に、「陸域生態系」の利用によるインパクトの影響が大きいという結果となりました。
リスク・機会の特定
上記の依存・インパクトの分析結果、「中程度以上」と評価した依存・インパクトから想定されるリスク・機会の特定を行いました。TNFD提言では、自然関連のリスク・機会について、移行リスク(政策、市場、技術、評判、賠償責任)、物理的リスク(急性、慢性)、機会に分類しています。当社グループは、この分類に従い、リスク・機会を特定しました。
大分類 | 小分類 | 項目 | バリューチェーン 区分 |
|
---|---|---|---|---|
リスク | 移行 リスク |
政策 | ・自然保護政策強化による、開発用地減少や、原材料流通量減少による原材料の調達コスト増加 | 上流 |
・自然への負荷の最小化や物件の緑化、自然の保護・復元等に関する法規制の強化による対応コスト増加 | 直接操業 | |||
市場 | ・持続可能な原材料(木材等)の需要増加による、原材料価格高騰による、調達コスト増加 | 上流 | ||
・自然への配慮が不十分な物件の需要減少による売上減少 | 直接操業 | |||
技術 | ・自然への影響を抑える建設技術・工法の導入のコスト増加 | 上流 | ||
評判、賠償責任 | ・自然に悪影響を及ぼす調達や開発、操業等に対する批判によるレピュテーション低下、賠償発生 | 上流・直接操業 | ||
物理的 リスク |
急性 | ・自然災害の頻発による原材料の調達量減少または調達コスト増加。施工の遅延・中断による建設コスト増加。運営物件での休業による売上減少、復旧コスト増加 | 上流・直接操業 | |
慢性 | ・原材料生産環境の悪化による調達量減少・調達コスト増加 | 上流 | ||
・自然災害リスクの増大による開発適地減少・工事保険料増加 | 上流 | |||
・自社及び他の事業者の開発や操業で、周辺地域の自然資本や景観が損失され、資産価値下落 | 直接操業 | |||
・ヒートアイランド現象の悪化により、空調コスト増加 | 直接操業 | |||
機会 | 市場 | ・生物多様性認証取得物件などの自然配慮型物件や、持続可能な建設資材の利用(奥多摩の森で伐採した木材など)を利用した木造建築のニーズ増大による売上増加・資産価値向上 | 上流・直接操業 | |
資本フローと資金調達 | ・自然の保護・再生のための新しい資金調達施策等の活用 | 上流 | ||
資源効率 | ・高効率な技術による建設資材使用量や運営コストの削減、サーキュラーエコノミー推進等による産業廃棄物処理費用減少 | 上流・直接操業 | ||
製品とサービス | ・自然資本との調和を目指した、新しい物件・サービスの提供による売上増加・資産価値向上 | 上流・直接操業 | ||
評判資本 | ・調達ガイドラインの配布や生物多様性方針の策定など、自然資本に配慮した調達、施工、操業によるレピュテーション向上 | 上流・直接操業 | ||
自然資本の持続可能な利用 | ・持続可能な方法で調達・生産された建設資材の利用推進 | 上流・直接操業 | ||
生態系の保護、復元、利用 | ・調達地や開発物件・保有物件の周辺で、環境の保護、復元、利用に貢献 | 上流・直接操業 |
特定したリスク・機会については、依存・インパクト分析と合わせて、定期的に見直しを図っていくとともに、科学的根拠に基づく気候•自然シナリオを参照し、影響の定性的・定量的分析を行い、また短期・中期・長期などの顕在化する時期の蓋然性を分析するなどの高度化を検討してまいります。
要注意地域との接点の分析
依存・インパクト関係の分析の結果、「陸域生態系の利用」のインパクトが大きいことを踏まえ、「陸域生態系」の要注意地域と当社グループの活動地域の接点を確認しました。具体的には、当社グループの保有・分譲物件(2022年度)を対象として、生物多様性リスク評価ツール「IBAT(Integrated Biodiversity Assessment Tool)」を用いて、物件が存在するエリア別に、自然保護地域等※の存在状況を確認しました。
IBATでは、各種の自然保護地域の分布がわかる地図情報を閲覧することができます。IBATを用いて、事業活動を行っている場所と生態学的な要注意地域の位置関係を確認することで、当社グループの事業がどこで、どのような生態系にインパクトを与えている可能性があるかを把握することができます。
今回IBAT上で参照した地図情報は、下表の通りです。(各地図情報の詳細については、注釈の自然保護地域等の説明をご覧ください)
IBAT上で参照した地図情報 | 本分析における表記 |
---|---|
National | 国定 |
World Heritage | 世界自然遺産 |
Ramsar | ラムサール条約湿地 |
MAB | ユネスコMAB |
IUCN management category | IUCNカテゴリー |
STAR layers 50 km resolution | STARスコア |
Key Biodiversity Areas (KBA) | KBA |
当社グループの保有・分譲物件としては、対象保有・分譲物件がリストとして整理されている最新年度であった2022年度を対象年度としました。保有物件は2022年度時点で当社グループが日本全国に保有していた物件、分譲物件は2022年度中に当社グループが日本全国で分譲した物件を指します。合計700件程度(戸建物件を1棟ずつカウントした場合)が該当しました。
IBATを用いた分析の結果、当社グループの物件が存在するエリアにおいて確認された自然保護地域等は、「国定(国立・国定公園等)」や「IUCNカテゴリーⅣ/Ⅴ」、「KBA」が大多数でした。「世界自然遺産」や「IUCNカテゴリーIa/Ⅲ」の存在は確認されませんでした。他の自然保護地域等については、当社グループ物件が集中していないエリアにおいて、一部存在が確認されました。(表「当社グループ物件が集中しているエリアにおける、自然保護地域等の存在状況」参照)
当社グループ物件が集中しているエリアでは、「国定(国立・国定公園等)」や「IUCNカテゴリーⅣ/Ⅴ」、「KBA」といった自然保護地域が存在していることが確認されました。表「当社グループ物件が集中しているエリアにおける、自然保護地域等の存在状況」中の10エリアに所在する物件の延床面積の合計は、対象物件の延床面積8割以上を占めています。当社グループは、事業展開の特性上、都心や首都圏において、すでに建物がある地域での開発が多いことから、新たに自然資本を損失する要素は少ないと考えております。
また、重要な自然保護地域に指定される地域の半径数十km圏内に、当社グループの物件の一部が位置していますが、該当する主要物件の開発状況等を確認したところ、自然保護地域の中での活動はありませんでした。また、これらの地域について、現状では追加で開発を行うことも予定しておりません。また、環境アセスメント等の法令対応に加えて、自然保護地域への影響が懸念される活動を行う際には、個別の物件毎に自然との接点について確認しております。
当社グループが開発・保有を行っている物件が集中しているエリアでは、当社グループの事業が自然に影響を及ぼすことも想定されますが、同時に、当社グループが自然の保護・復元等に向けて取り組みを行うことでの好循環を期待することができます。これらのエリアにおいて、当社グループが取り組みを行った場合の効果測定や、新たな機会創出の可能性の検討も進めております。
なお、今回は最もインパクトが大きい陸域生態系に着目して要注意地域との接点の分析を行いました。当社グループでは、淡水や海域に接している物件の開発・保有も行っており、淡水生態系・海域生態系へのインパクトも大きいと認識しているため、今後は、淡水生態系・海域生態系の要注意地域との接点の分析も行うことを検討しています。
※対象とした自然保護地域等の説明は以下の通り。
自然保護地域等 | 概要 |
---|---|
国定 | 国立・国定公園など、法律に基づき一定の開発・捕獲規制等などの行為が制限されている保護地域等。 |
世界自然遺産 | ユネスコの世界自然遺産に登録され、国が適切に保護・管理している地域。 |
ラムサール条約湿地 | ラムサール条約締結国が、条約事務局が管理する「国際的に重要な湿地に係る登録簿」に掲載した湿地。 |
ユネスコMAB(UNESCO's Man and the Biosphere) | ユネスコ「人間と生物圏計画」に基づき各国政府が設定している、豊かな生態系を有し、地域の自然資源を活用した持続可能な経済活動を進めるモデル地域。 |
IUCNカテゴリー |
国際自然保護連合(IUCN)が整備している保護地域カテゴリー。数字が小さいほど厳重に保護されている。 <Ia:厳正保護地域> その特性は人間の関与なしで形成され、何等かの人的活動の影響を受ければ、劣化・崩壊する。当該地域にいるべき在来種がすべて生息し、あるべき生態系がすべて存在している。ほとんどが手つかずで、完全な生態系過程を有する。 <Ib:厳正自然地域> 原生に近い自然を有し、原生生態系が高い比率で保たれており、完全な状態である。在来の動植物相がほぼ/全く欠けることなく存在している。生物多様性、生態学的過程、生態系サービスを保全するのに十分な面積である。 <Ⅱ:国立公園> 生物多様性の組成、構造、機能は「自然」の状態に非常に近い。生態学的機能・作用を維持できる十分な面積と生態学的良質さを備えている。 <Ⅲ:天然記念物> 通常小面積で、広大な生態系ではなく、1つもしくは複数の傑出した自然的特徴と関連する生態学的環境。「自然的」という表現は、全く自然のものと人間の影響を受けたものを指す。 <Ⅳ:種と生息地管理地域> 世界、国、地方レベルで重要とされる植物種や動物種、生息地。規模は様々だが、比較的小さいものが多い。 <Ⅴ:景観保護地域> 人間の自然の長年にわたる相互作用により、生態学的、生物学的、文化的、景観的価値を備えるようになった地域。人間と自然の均衡のとれた相互作用は損なわれていない状態。 <Ⅵ:自然資源の持続可能な利用を伴う保護地域> 熱帯雨林、砂漠、湿地、沿岸、公海、寒帯林などの広大な自然地域。そのほとんどが自然の状態。 |
STARスコア | 国際自然保護連合(IUCN)は、絶滅のおそれのある野生生物種をまとめたレッドリストを策定している。 本分析では、50km四方のメッシュエリア別に、そのメッシュエリアでの取組が世界全体の種の絶滅リスク軽減に与える影響度を表現したSTAR(Species Threat Abatement and Recovery:種の脅威の軽減と回復の指標)スコアにより、レッドリストの種に関するリスクを確認した。 STARスコアは、レッドリスト種と分布・希少性の重みづけ×人間活動による影響を掛け合わせて計算されている。 各メッシュエリアは、スコアに応じて、Very Low~Very Highの6カテゴリーに分類されている。 |
KBA | Key Biodiversity Areaの略で、生物多様性の保全の鍵になる重要な地域。 鳥類の保全を行っているバードライフ・インターナショナルが設定したIBA(Important Bird Area)、植物についての重要地域であるIPA (Important Plant Area)、分布が1か所に限られる絶滅危惧種が生息している地域であるAZE(Alliance for Zero Extinction)、既存の保護地域などに含まれない地域を整理したもの。 |
参考文献:
環境省「生物多様性 17 保護地域の指定状況」
環境省「日本の世界自然遺産」
環境省「ラムサール条約と条約湿地」
文部科学省「生物圏保存地域(ユネスコエコパーク)」
東広之(2019)「保護地域とはどのような地域か:IUCN 保護地域管理カテゴリーの概説」
IBAT “Species Threat Abatement and Restoration Metric (STAR)”
IBAT “Species Threat Abatement and Restoration (STAR) data layer Business User Guidance”
コンサベーション・インターナショナル・ジャパン「KBAとは?」

なお、「生態系の十全性が急速に低下している地域」、「物理的水リスクが高い地域」、「地域社会とステークホルダーへの便益を含む、生態系サービスの提供にとって重要な地域」に関しても分析することを検討してまいります。
リスクとインパクトの管理
当社グループでは、グループ経営に関する様々なリスクの審議を行うため、経営会議をリスクの統合管理主体として定め、主要なリスクの状況について定期的にモニタリング、評価及び分析を行い、各部門及びグループ各社に対して必要な指導及び助言を行うとともに、その内容を定期的に取締役会に報告を行う体制としています。「A:投資リスク」、「B:外部リスク」については、統合管理主体である経営会議が直接モニタリング等を行い、「C:災害リスク」及び「D:内部リスク」については、経営会議の下部組織として設置している「リスクマネジメント委員会」が定期的なモニタリング、評価及び分析を行うとともに、発生前の予防、発生時対応、発生後の再発防止等についての対応策の基本方針を審議しております。
リスク カテゴリ |
定義 | |
---|---|---|
A | 投資リスク | 個別の投資(不動産投資・戦略投資(M&A)等)に関するリスク |
B | 外部リスク | 事業に影響を及ぼす外的要因に関するリスク |
C | 災害リスク | 顧客および事業継続等に大きな影響を与える災害に起因するリスク |
D | 内部リスク | 当社およびグループ各社で発生するオペレーショナルなリスク |
自然・生物多様性を含むサステナビリティ関連の機会とリスクとそのインパクトに関しても、サステナビリティ委員会で都度検討され、当社グループ全体に影響が大きい事項については、内容に応じて、取締役会・経営会議・リスクマネジメント委員会に適宜報告・審議される体制となっております。また、サステナビリティ委員会は、サステナビリティ推進に関する方針・計画策定及び実績管理、グループ社員への理解浸透・各種情報開示等に関する事項、並びにグループ全体としての方針・目標等について審議、施策の優先順位の検討など、グループ経営に関する様々な課題におけるサステナビリティ関連のリスク・機会の統合的管理と、サステナビリティ関連のリスク・機会の個別管理にも関与する体制となっております。
測定指標とターゲット
当社グループでは、生物多様性や自然資本の損失の回避、状態の維持・回復・改善を目的とした当社グループ独自のKPI・測定指標とターゲットを設定しています。
2030年までの重点課題(マテリアリティ)の計測指標(KPI)及びその他測定指標
測定指標 | ターゲット | 事績・進捗 | 参照 | バリューチェーン区分 | TNFD 測定指標番号 |
||
---|---|---|---|---|---|---|---|
中核 | 追加 | ||||||
KPI | CO2排出量 (Scope1・2) |
60%削減 | ▲34.7% (2022年度) |
CO2排出量の削減 | 直接操業 上流 |
該当番号なし | ― |
廃棄物量削減と廃棄物再利用率向上:産業廃棄物量削減率 | 20%※ | 集計段階 | 廃棄物排出量削減 | 直接操業 | A2.1※ | ||
測定 指標 |
排水量(下水) | ― | 1,701千m³ (2022年度) |
その他実績データ(長寿命・高耐久化の商品・サービスの提供) | 直接操業 | C2.1 | ― |
水消費量(千m³) | ― | 339千m³ (2022年度) |
その他実績データ(長寿命・高耐久化の商品・サービスの提供) | 直接操業 | A3.0 |
2023年9月発行の自然関連財務情報開示タスクフォースの提言の別紙2「TNFDのグローバル追加開示指標」の測定指標番号に関連する、当社グループのKPIを示しております。
その他のTNFD開示指標に該当しない指標については、生物多様性ページをご覧ください。
なお、当社グループでは、昆明・モントリオール生物多様性枠組のターゲット、パリ協定、SDGs目標、プラネタリーバウンダリー等の参考に、自然・生物多様性に関連する測定指標とターゲットの検討を継続的に行っております。TNFD開示指標に該当する測定指標とターゲットを新たに設定した際には、開示を随時更新してまいります。
現在の取り組みと今後の方針
生物多様性方針の策定
当社グループでは、2024年4月、生物多様性や自然に関連する課題に対して、事業活動を通じて当社グループ全体で取り組むために、「野村不動産グループ生物多様性方針」を策定しました。同方針では、国際目標である「昆明・モントリオール生物多様性枠組」に賛同し、2030 年までに生物多様性の損失を止め、反転させ、回復軌道に乗せる「ネイチャーポジティブ」の達成に向けた行動を促進すること、並びに事業活動が及ぼす生物多様性へのネガティブな影響に対しては、回避・低減・代償の優先順位で対策を実施する「ミティゲーション・ヒエラルキー(緩和階層)」の原則を適用することを示しております。また、当社グループの主要事業エリアをもとに重点エリアを定め、重点エリアにおける森、川、街、海等の生態系の健全性と、人々の Well-being を統合的に向上させる「ランドスケープアプローチ※1」による社会課題の解決を目指します。また、NbS(nature-based solutions)を最大限活用し、ビジネスを通したネイチャーポジティブへの取り組みを推進していくことを掲げております。
「森を、つなぐ」東京プロジェクトでの挑戦
「ランドスケープアプローチ」による課題解決の具体的な取り組みとして、当社グループは、主要事業エリアである東京において、自然と都市の共生を目指す、「森を、つなぐ」東京プロジェクトを始動しました。当社グループが奥多摩町内に保有する「つなぐ森」は、多様な生物の生息や、生態系管理等が評価され、「自然共生サイト※2」にも認定されました。生態系及び重要種の保全に向けた取り組みを推進する他、生態系サービスの提供等によるネイチャーポジティブへの貢献を通じ、他の事業地域にも展開可能なモデルケース化に挑戦しております。
奥多摩を源流とする多摩川は、東京都下北部、東京都下南部、23区南西部等を経て、東京湾に流れ込みます。多摩川流域周辺には、当社グループの主要事業エリアがあり、また、当社の主要事業拠点である新宿・芝浦もその周辺に所在しています。
今後、芝浦周辺の港湾部・運河地帯では、景観の観点から水域の環境に依存しているとともに、排水等により水域の生態系に影響を及ぼしていると考えられることから、こうした影響を及ぼさない各種取り組みの検討を進めております。
また、当社グループはマテリアリティ策定のプロセスにおいて、ステークホルダーにとっての重要な要素も抽出しております。サステナビリティ専門家、機関投資家、取引先、お客さまなどに対して、当社グループに期待すること、当社グループが対応すべき社会課題という視点で、当社グループにとっての重要な要素として抽出した12の項目に対するスコアリング評価を依頼し、意見を収集しております。こうしたステークホルダーとの対話のプロセスにおいて、頂いたご意見である「生態系への配慮や持続可能性の高い素材選定に期待」に対応すべく、「生物多様性認証の取得」・「国産・認証木材使用の促進」の対応を進めております。
その他の取り組みは、生物多様性ページをご覧ください。
流域の広がりや生態系のつながりを考慮し、事業を展開するエリアだけでなく広域地域や国家レベルでの保全に多様な関係者を巻き込んで取り組むこと
環境省が、民間との取り組み等により生物多様性の保全が図られている区域を認定する制度
サステナビリティ
- 環境(気候変動と自然環境)
- 社会(社会と社員)
- ガバナンス
- ESGデータ集