トップメッセージ

野村不動産ホールディングス株式会社
代表取締役社長
グループ CEO
沓掛 英二

野村不動産グループとは企業理念と現場の声から読み解く存在意義と独自性

野村不動産グループの「存在意義」と「目指す姿」

 私たちは、企業理念、私たちの約束として「あしたを、つなぐ」を掲げています。この言葉には、住まいや、街づくり、不動産関連サービスを通じて、人々の暮らしや働きをつないでいく、ひいては豊かな社会や人々の幸せを未来につないでいくという強い思いが込められています。

 不動産開発や不動産関連サービスの提供を通じて、誰もが長期にわたって安心、安全で健康、快適な時を過ごすことができる、質の高い住まいや街づくり、不動産関連のさまざまなサービス提供に貢献すること、そして持続可能な社会の創造に貢献していくことが野村不動産グループの存在意義であり、ステークホルダーの皆さまと共に築いていくものと捉えています。

 現在、当社は経営層をはじめ未来の当社グループを担う多くの若手・中堅世代の社員が中心となり、当社グループはどういう会社でありたいのか、2030年、2050年を見据えたさまざまな議論を進めています。バックキャスティングの思考で、今何をしなければいけないのか、思い描く未来の姿を強くイメージした中長期経営計画を策定中です。その議論の中で必ず出てくる言葉が、人の幸せやコミュニティの大切さであり、人そして個に寄り添う姿勢であり、未来に向けた人や街とDXを活かしたサービスの充実です。ステージは各国さまざまですが、海外の都市においても同様の指向が強まっています。

 人にフォーカスした持続可能な街づくりや社会の発展に貢献することで成長し続ける。当社グループは、そのようなグループでありたいと考えています。

野村不動産グループの独自性

 当社グループは、1957年に野村證券から分離独立する形で、野村不動産が設立されたことを起源とします。不動産業を通じて社会に報いる最善の道として、当時の緊急の課題であった住宅難の解決のため、ニュータウン開発に全力を投ずることを掲げて住宅開発事業へと踏み出しました。また1963年には早くも共同住宅(マンション事業)に挑戦し、その後もビル開発や運営管理、不動産仲介等の関連サービスを充実させ、人々の暮らしが変化する中、常にお客さまや社会のニーズを読み解き挑戦者の精神で成長を続けてきました。

 それぞれの時代を通じて磨かれてきた当社グループの独自性、競争優位性は、建物や街で暮らす、過ごす人々を第一に考える「お客様第一の精神」、お客さまのニーズや社会の変化を捉えた「マーケットイン発想」に表れています。当社グループは、住宅に関して開発から設計、販売、管理に至る過程を一気通貫で手がける「製・販・管一貫体制」をいち早く構築し、それを強みとしてしっかりと継続してお客さまからの信頼を得てきました。販売の現場でお客さまからいただいたご要望、実際に住まわれた後の声を通じて、お客さまの未来の暮らしを具体的かつ精緻に想像し、より高い品質のモノ、サービスを提供するための改善をあらゆる工程で反映する。そのために侃々諤々の議論を重ね、こだわりぬくモノづくりのスタイルは当社ならではのものであり、今では住宅だけではなくオフィス、物流施設などさまざまな事業分野でその精神が活かされています。

 さらに、グループ全体で278名の一級建築士が在籍していることなどが示すように、当社グループには、強いこだわりを持って質を追求し続けるモノづくりやサービスの充実を図る文化・人材が備わっています。お客さまから真の信頼を得るために、お客さまの声に徹底して耳を傾け、質を高め続けることを重視する姿勢は、当社のDNAとも言えるものです。つくって終わり、売って終わりでは無く、実際にお使いいただき、ご評価いただいて初めて価値が発現する、建物が完成してからがスタート地点である、という姿勢こそが当社グループの新たな価値創造につながっているのです。

 また、開発した物件を自ら保有し続けることにとらわれず、お客さまへの分譲や当社グループが運営するREIT、私募ファンドなどへの売却(資産のオフバランス)などを通じて積極的に開発利益を獲得し、その後も運営、管理等を通じて、長期にわたって関与し続けるビジネスモデルも当社グループの大きな特徴です。

 60年を超える当社グループの歴史の中で、自ら保有する物件に加えて、分譲後の管理を継続しているマンション、グループREITなどが保有する物件を含めた多くのお客さまとのつながりを、ビジネスストックとして形成してきました。この積み上げてきたお客さまとのつながり、接点を最大限に活用し、ニーズを徹底的に吸い上げて新たな価値創造につなげることで強固な事業成長モデルを構築し、当社グループは不動産開発を担う「デベロップメント」と不動産関連サービスの提供を行う「サービス・マネジメント」の両面から独自の価値創造を行う、特色ある企業グループに成長を遂げています。

 一つとして同じものが存在しない不動産事業では、ともすると個々の物件で積み上げたノウハウや知見は発散してしまいがちです。個別の物件に対してのお客さまからの評価を独自の「ブランド」として積み上げ、形にする仕組みを確立していることも当社の大きな特徴です。ブランドとして定義されたノウハウや評価は、水平展開することで新たなブランドを生み出すことにもつながり、さらなる価値を生み出し続けています。例を挙げれば、住宅の統一商品・サービスブランドである「プラウド」で磨き上げてきた、高品質のモノづくりと運営管理のノウハウを、中規模ハイグレードオフィス「PMO」や、商業施設「GEMS」、物流施設「Landport」などにも活かし、アセットタイプの拡大と新たな価値の提供につなげています。

長期的な環境認識将来にわたる成長とその課題

大切にしている視点

 一般的に、不動産に関わるビジネスは時間軸が長いと言われます。しかし、直近10年ほどの社会の変化を見てもICT・AIの急速な発展に加えて、新型コロナウイルス感染症拡大の影響も相まって人々の住まい方や働き方は猛烈なスピードで変化を遂げています。不動産は人々の生活の基盤でもあり、社会の変化から逃れることはできません。

 長期的な視点を見据えて将来起こるであろう社会の変革、価値観の変化を予測し、重要となる要素を見極め、そこからのバックキャストにより、足元の動向を的確に分析し、なすべきことを考える。その上で、変化を先取りした戦略を遂行することが重要です。そうでなければ、長期にわたってお客さまに満足いただける価値を提供し続けることはできません。「お客様第一の精神」「マーケットイン発想」を貫いてきた当社グループだからこそ、将来に向けての大きな変化に対応してゆけるものと確信しています。

中長期の持続的な成長を果たすために

 当社グループが中長期の成長を見たときに、すでに芝浦一丁目プロジェクトを代表とする大規模複合開発が動き出しています。これらはコロナ後のワークスタイル、ライフスタイルの在り方や、DXによる変化を想定した、当社グループ独自の不動産開発とサービスの提供を実現する場となるものであり、カーボンニュートラルをはじめとした持続可能な街づくりでなくてはなりません。

 さらなる成長を成し遂げるためのもう一つの大きな要素は、成長著しいアジア諸都市での事業拡大です。当社グループはすでに東南アジアを中心とした分譲・賃貸合計で26案件、計1,060億円の投資を決めています。当社が日本で培ったノウハウを活かして生み出す価値が、現地のパートナー企業やお客さまに高く評価され始めています。猛スピードで進むアジアの都市化の中で当社が新たな価値を提供できるよう事業展開を図り、そこに住まい、働き、憩う人々の幸せに貢献していく、そしてそれらがグループ全体の成長に寄与する戦略を推進していきます。

 今後10年、20年後を見据えた場合には、不動産開発だけでなく、ICTやDXを活用した街やコミュニティの活性化、不動産に付随するサービス向上を一体となって提供できるかが成長の鍵となります。住宅やオフィスのas a Service化とも言われますが、実物としての不動産、そこで暮らす人々へ提供するサービスを膨大なデータと組み合わせることで、さまざまなものがつながる街、住まいやオフィス、商業施設などを作り上げ、ハードとしての不動産の価値を超えた、生活や暮らしそのものへの満足を提供できるかがポイントです。

 足元を見るとすでにその大変化の波が起きようとしています。オフィスを例にとれば、全員が毎日出社するセンターオフィスだけに圧倒的な価値を見出していた社会は変わり始めています。センターオフィスの重要性は変わらないものの、それに加えて多様な場所で快適に、社員一人ひとりが高いパフォーマンスを発揮できる柔軟な環境を提供できることが、企業の人材獲得の条件となりつつあります。当社グループが以前より推し進めている「オフィスポートフォリオ戦略」は、ハードとしての不動産とソフトとしてのサービスを駆使して、こういった変化に対応するものです。

 当社グループのサテライト型シェアオフィス「H¹T」の会員数が急速に増加している事実は、その変化が一時的なものではないことを示しています。

 このような急速な社会変化を事業機会につなげ、新たな価値提供の芽を現時点でどれだけ増やせるかが、将来の成長度合いに直結します。すでに待ったなしの状況にあり、新たな事業機会を見出し、我々の成長をブレイクスルーさせる、未来を見据えた取り組みを、強い危機感を持って加速させています。

 同時に「プラウド」や「PMO」に代表される、既存の事業での当社グループの競争力をさらに深化させ、確かな地位を築き続けるためには、時代や環境の変化をしっかりと捉え、人々の暮らしに寄り添うマーケティングや商品開発、街づくりを徹底していく必要があります。

未来(あした)をつなぐ人材戦略について

 人材戦略の強化も大きな課題の一つです。当社グループの行う不動産開発や街づくり、不動産関連サービスの提供には高い専門性を必要とすると同時に、事業領域の幅が広く多種多様な人材が必要です。これまでも年齢、性別といった属性を問わず、さまざまな個性やキャリアを持つ方々に当社グループに参加いただいていますが、グローバル人材や将来の経営を担う人材の育成のためにも、多様性のさらなる推進の必要があります。

 その中でもDXに対応する人材の強化は必要不可欠です。当社グループには膨大なビジネスストックから得られる多種多様なデータが存在しています。このデータを活用するためにも、DX推進体制の整備や、ICT、AI等を用いた付帯サービスのネットワークを構築することでas a Service化を実現するノウハウや知的財産に精通した人材を強化することが、グループ全体のさらなる競争力向上につながると考えています。

サステナビリティ経営と一体化した取り組み

サステナビリティの重要性

 当社グループがサステナビリティ/ESGを重視する最大の理由は、将来のリスクを軽減することに加え、事業機会の拡大につなげることにあります。人々の生活に深く関連するサステナビリティの4つの重点テーマ「安心・安全」「環境」「コミュニティ」「健康・快適」を切り口に、社会課題の解決に向けた取り組みを通じて新たな事業機会と当社グループの存在意義を見出し、事業活動によって新たな価値を創出する。この観点から、サステナビリティは経営と不可分であり、同一線上であるべきものです。2021年4月より、私がグループCEOとサステナビリティ委員長を兼務することにしましたが、これもまた、事業戦略とサステナビリティの方向性を完全に一致させる意志の表れです。

 現在、長期的な方向性をグループの全社員がしっかりと共有し、自分ごととして捉えること、つまり、次の成長に向けてグループ全員が結束し、その総合力を発揮するための支柱となる「サステナビリティポリシー」の策定を目指しています。

サステナビリティの具体的な取り組み

 当社グループは、不動産開発に関わる企業グループとして、環境(E)面での取り組みを重要な経営課題として取り組んでいます。日本政府の掲げる「2050年カーボンニュートラル」実現に向けて、SBT*1認定目標である、「2031年3月期までに2020年3月期比、温室効果ガス(CO2)排出総量Scope1・2およびScope3をそれぞれ35%削減」達成に向けて、さまざまな取り組みを推進しています。

 具体的には、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)やZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビルディング)など、脱炭素への取り組みを加速させるほか、物流施設「Landport」を活用した再生可能エネルギー創出、サプライヤーと協働した建設現場におけるCO2排出量削減などに取り組んでいます。あわせてすでに賛同表明しているTCFD*2に則った情報開示についてもさらなる充実化を図ります。

 社会(S)面においては、2021年7月に「野村不動産グループ人権方針」を策定しました。本方針は、「グループ企業理念」に基づき、また、あらゆる人の尊厳と基本的人権を尊重して行動することを定めた「野村不動産グループ倫理規程」を踏まえて策定されており、今後はすべての事業活動を本方針遵守の下、実行していきます。

 加えて、すでにトライアルで実施している「野村不動産グループ調達ガイドライン」を通じたサプライヤーとのエンゲージメントにおいても、今後本格的な運用に向けた体制整備を行い、ステークホルダーの皆さまと共に人権課題の解決に寄与していきます。

 ガバナンス(G)に関しては、企業経営経験者や女性を含め、取締役の多様性が広がっています。取締役会の実効性も向上していると感じていますが、さらなる進化を目指し、取り組みを進める考えです。

*1. Science Based Targets: 世界の平均気温の上昇を「2度未満」に抑えるために、企業に対して科学的な知見と整合した削減目標を設定するように求めるイニシアチブ
*2. Task Force on Climate-related Financial Disclosures(気候関連財務情報開示タスクフォース): 気候関連の情報開示および金融機関の対応をどのように行うかを検討するために設立

ステークホルダーへのメッセージ挑戦者であり続ける

資本効率と株主還元の両立

 現金配当や自己株式取得を含めた株主還元の充実は、私がCEOに就任してから特に意識して取り組んできたことです。現在の中長期経営計画のフェーズ1(2020年3月期~2022年3月期)では総還元性向を40~50%程度とし、現金配当については、10期連続の増配を予定しています。

 株主・投資家をはじめとするステークホルダーの皆さまには、高い資本効率、高ROEを土台として高還元と成長の両立を実現する姿勢を、当社グループの特色の一つとしてご評価いただいていると認識しています。今後も、中長期経営計画の最終年度である2028年3月期に向けた我々が目指す姿を見据え、そこからのバックキャストによって足元で取り組む布石を打ち、その確実な実現を図ってまいります。加えて、2022年4月には新たな中長期経営計画を発表する予定であり、さらにその先を見え据えた成長戦略、サステナビリティポリシーとも一体となった、継続的な企業価値向上のための取り組みをお示しする予定です。

長期的な価値向上に向けた想い

 不動産開発を担うデベロップメント分野と、不動産に関連するサービス・マネジメント分野が連携してグループ力を発揮し、社会課題と向き合い新たな価値を生み出す街づくりをグローバルに展開し、独自性のある成長を持続させ、企業価値向上を実現することが当社グループの存在意義にもつながると考えます。

 当社グループは、2020年3月期に過去最高益を達成しました。2021年3月期は新型コロナウイルス感染症の影響から一時的な業績の落ち込みを経験しましたが、2022年3月期は過去最高益となる事業利益850億円という水準を確実に達成し、皆さまに明確な回復と、成長への確かな道筋を示したいと考えています。

 1957年設立、2006年上場と不動産業界の中では比較的歴史が浅い当社グループは、ベンチャースピリットを持った“挑戦者”であり、そしてそうあり続けたいと考えています。今後も、マーケットイン発想を核とした、人そして個に寄り添う不動産開発とサービスの提供にこだわり抜き、先見性をもって新たな市場を開拓するDNAを継承しつつ、独自性のある価値創造による成長を目指してまいります。ステークホルダーの皆さまにおかれましては、今後とも当社グループにご期待、ご支援いただきますよう、よろしくお願い申し上げます。

野村不動産ホールディングス株式会社
代表取締役社長 グループCEO

沓掛 英二