トップメッセージ

野村不動産ホールディングス株式会社
代表取締役社長
グループ CEO
沓掛 英二

新中長期経営計画の策定とその背景

当社グループは企業理念として、

あしたを、つなぐ

私たちは、人、街が大切にしているものを活かし
未来につながる街づくりとともに
豊かな時を人びとと共に育み
社会に向けて、新たな価値を創造し続けます

を、ステークホルダーの皆さまへの私たちの約束として掲げ、2016年4月より前中長期経営計画(以下、前計画)を推進してきました。前計画フェーズ1の3年間では、住宅系再開発事業に加えてオフィスなどの複合型再開発事業への取り組みの加速や、収益不動産事業の拡大、海外事業における基盤構築など将来の成長への布石を着実に積み上げてきました。
 その間日本国内においては、景気全体の穏やかな回復が進みながらも、人口減少、労働力不足などの社会課題が顕在化するとともに、共働き世帯の増加など、少子高齢化の一言だけでは言い表すことのできないほどのライフスタイル・ワークスタイルの多様化が急速に進行しています。不動産市場では、それらに伴う顧客ニーズの大きな変化に加え、建築費の高止まりや用地取得競争から生じる新築分譲住宅における販売価格の上昇などが発生しました。
 このような状況下、当社グループの2019年3月期の営業利益は前計画フェーズ1の営業利益目標850億円に対して791億円、ROEは10%水準の目標に対し実績は8.9%となりました。この結果については、各部門の対応すべき課題が浮き彫りになってきていると認識しており、当社グループとして強い危機感を持っています。
 2019年4月には新中長期経営計画(以下、新計画)を発表しました。新計画は、前計画で積み上げた成長への布石を土台に、急速に進む社会環境の変化を踏まえた中長期的な視野を持つことで、我々は何を戦略的にしなければいけないか、将来を見据えたバックキャスティングにより策定しました。これは、当社グループの強みを活かした新たな価値を創造し続けることで、持続的成長を目指す計画となっています。

企業理念と事業戦略

企業経営においては、明確な企業理念と、それを実現する事業戦略、組織やガバナンスを含めた仕組みが極めて重要です。これらの確立なくしては企業の持続的な成長は望めません。また私たちは、不動産とは、その土地や建物が連綿とつないできたさまざまな歴史や人々の思いの集合体であると考えています。そのかけがえのない不動産を活用した開発や関連するサービスの提供を通じ、その土地、育まれたものを活かし、時代とともに役割を変え、新たな価値を創り出し、未来に向けてつないでいきます。これこそが当社グループの果たす社会的な役割と考えています。

変化し続ける社会環境への対応

事業戦略の立案・遂行にあたって重要な点は、変化し続ける社会環境・事業環境を的確に捉え、その時代における社会課題に応えることです。当社グループは創業以来60年以上にわたり、不動産開発事業や不動産に関わる多様なサービスの提供と拡充を通じて、変化し続けるさまざまな社会課題と対峙してきた歴史があり、その行動は今もなお継続しています。
 当社グループは「お客様第一の精神」、「独創的発想による新たな価値創造」、「挑戦者であり続ける姿勢」、「社会と共に成長していく自覚」、「活き活きと働くウェルネスの実現」の5点を行動指針としています。それらは、ライフスタイル・ワークスタイルの変化に伴う住宅事業における顧客嗜好の変化、賃貸事業における働き方改革や技術革新によるオフィスニーズの変化、またIoTやデジタルテクノロジーの進化、超高齢社会での相続関連の不動産仲介ビジネス機会の増加、インバウンド投資の増加など不動産を取り巻くあらゆる分野での変化や将来を見通して対応していく「マーケットイン発想」へとつながっています。これらは当社グループの事業戦略における大きな競争優位性となっています。
 加えて、住宅に限らず都市開発における幅広いアセットタイプでの開発実績、品質へのこだわり、グループ総合力といった、当社グループの強みのすべてを最大限に活かし続けることこそが、新計画において定めたフェーズごとの成長を達成する上で大切であると考えています。現場で吸い上げた顧客ニーズを具体的な商品開発へとつなげる発想力や、世の中の動きや顧客ニーズへの感度を常に高め続けられるよう、グループ一体となって取り組んでいきます。

新計画における4つの価値創造のテーマの意義

新計画においては、特に重要な価値創造のテーマとして「豊かなライフスタイル・ワークスタイルの実現」、「『利便性』『快適性』『安心・安全』に優れた多機能な街づくり」、「地球環境・地域社会の未来を見据えた街づくりとコミュニティ形成」、「良質な商品・サービスのグローバル展開」の4つを定めています。これらは、グループ企業理念で掲げる姿への方向性を具体的に指し示す羅針盤となるものです。これにより、この先9カ年で当社グループが取り組む企業価値向上へのプロセスがより鮮明になりました。
 この4つの価値創造のテーマはいずれも、当社グループが培ってきた競争優位性と、これまで積み上げてきた布石、その双方を十分に活用することと、挑戦者の精神を持って臨んでいくことで実現可能となります。いずれも当社グループが積み上げてきた実績の先に見据える未来を指し示したものです。これからも持続的な価値創造の実現に向け取り組んでいく所存です。
 国内における社会環境の変化への対応を通じて成長を続けることに加えて、当社グループの持続的な成長を見据える上で海外事業に取り組む意義は大きく高まっています。アセアン各国を含むアジアの国々の成長を取り込むだけでなく、成熟マーケットである欧米におけるビジネス展開への視点を持つことに加え、海外から国内へのインバウンドニーズなど、グローバルな事業の推進・知見の獲得は待ったなしと考えています。

利益計画と事業ポートフォリオ

新たな利益計画については、利益目標を事業利益*1と定め、フェーズ1で850億円、フェーズ2で1,000億円、フェーズ3で1,200~1,400億円としました。現在や将来の不動産市況やビジネス環境を鑑みた上での計画ですが、特にお伝えしたいのは目指すべき事業ポートフォリオです。
 これまで、当社グループの事業ポートフォリオは、比較的短期間で開発利益を具現化する分譲・売却事業、安定したキャッシュ・フローを生み出す保有・賃貸事業、REITなどの資産運用、仲介・CRE、管理運営といったサービス・マネジメント事業の構成比率をバランス良く成長させることを目標としていました。新計画では、グループ全体の事業規模の成長に合わせて、総資産ボリュームを抑えると同時に資産回転率を高め、高水準のROEおよびROAを目指す方針を掲げました。これに向け、9年後の2028年3月期には分譲・売却事業とサービス・マネジメント分野の利益構成割合をそれぞれ40%まで高めていきます。
 プラウドに代表される住宅分譲事業や、PMOをはじめとする収益不動産事業など、開発利益を具現化する分譲・売却事業は当社グループの大きな柱となる事業です。これを加速させることに加え、将来の大型賃貸物件の竣工も見据えて、既存の賃貸資産を含む総資産全体のマネジメントを行い、バランスシートを適正規模にマネジメントすると同時に開発利益の具現化を積極化させていく計画としています。

*1. 事業利益=営業利益+持分法投資損益+企業買収に伴い発生する無形固定資産の償却費

海外事業への戦略的な取り組み

海外事業については、前計画で打ち出したその基盤づくりができつつあります。新計画においてはより戦略的に投資対象国や投資額を増加させ、利益拡大が可能な段階にまで積極的に取り組んでいきます。フェーズごとに投資と回収を加速させていくことで、新計画の最終年度の事業利益全体に占める海外事業の利益比率を15~20%に高める計画です。
 海外における不動産開発事業はその国の法律をはじめ文化・商風習・歴史からくる住まいや働き方と密接に関連したローカル色が非常に強い事業です。そのため、現地の信頼できるパートナーとの共同事業を推進していく戦略が重要です。事業への資金提供に加えて、当社が日本国内で培ってきた課題解決力・ノウハウを提供できる機会も多く、新たな価値の創造を実現する事業展開を目指します。
 同時に、海外展開には為替をはじめとしてさまざまなリスクも存在します。本社機能の一つとして設置した海外企画部を各部門と連携させることで、各国の不動産市場のリサーチやビジネスのモニタリングを行いながら、海外事業の規模の拡大とスピードを加速し積極的な展開を図っていきます。同時に海外事業の展開は、役職員の意識改革や視点の変化を促す良い機会となります。新しい環境でより広い視野と鋭い感度をさらに身に付け、国内・海外事業、双方への良い還流が起きることを期待しています。

資本コストを上回るROEの実現と株主還元の拡大

新計画では、経営として資本政策、特に資本効率と株主還元を高める施策を重視しています。投資家の皆さまから当社に期待される資本コストを考慮し、新計画では中長期のKPIとしてROE10%以上を目指します。その実現のために、分譲・売却事業を通じた開発利益の具現化、資産効率の高いサービス・マネジメント分野を組み合わせることでROA5%以上を目指します。
 株主還元について、当社はこれまでも7期連続の増配に加え、2018年3月期に同業他社の中で初めて自己株式の取得を実施、その後も継続するなど、資本市場との対話を踏まえた経営をしてきました。新 な計画においても、フェーズ1の総還元性向は40~50%程度を予定しています。

CSR/ESGへの取り組みの深化

CSR/ESGへの取り組みについては、持続的な企業価値の向上に向けて我々が意識をもう一段引き上げる必要があります。企業価値や収益力の持続的向上を考えた時に環境・社会それぞれの側面で見据えるべき機会とリスクは何か、機会を取り込み、リスクを最小化する戦略や考え方は何か、グループ内・外へ具体的にお伝えしていきます。当社グループでは、そうした環境や社会課題への取り組みを役員の業績評価にも組み込みました。
 2019年5月には、国連グローバル・コンパクトに署名、参加企業として登録するなど、CSR/ESGを経営や事業活動の中心に据えています。我々は新計画策定の過程では、社外取締役とも、事業機会・リスク認識に加え、経営資源の配分、活かすべき強みをどう伸ばすか、弱みをどう補完するか、目指すべき姿を見据えたバックキャストの観点で、さまざまな角度から議論を重ねてきました。これらのプロセスは当社グループのガバナンスの向上と企業価値向上の一翼を担っています。2019年6月の株主総会にてご承認いただいた、新たな社外の取締役の方々にも大きな期待をしています。数年来継続して実施している取締役会の実効性評価も踏まえて、さらなるガバナンスの進化に向け取り組んでいきます。

開発利益の具現化と企業価値向上に向けて

不動産業における企業バリエーションは、その土地・エリアを開発し価値を創造した資産の時価評価をベースとしたNAV(Net Asset Value)が評価基準とされるべきである、と私は考えています。ところが資本市場を見ると、当社グループを含む国内デベロッパーの多くはNAVを下回る評価が続いています。もちろん市況や環境にも左右されますが、物件を保有し安定した賃貸キャッシュ・フローを得るREITは、ROAは2~3%程度ながら、株価のNAV倍率は1倍程度の概ね適正な評価を受けています。一方、当社グループを含む主なデベロッパーはROAが4%台と効率性はREITを上回るにもかかわらず、株式市場の評価はNAV倍率1倍以下であり、利益の積み上げや成長、含み益の拡大が適正な市場の評価につながっていないと言わざるを得ません。
 多くの投資家の皆さまと対話を繰り返す中で、当社の評価においても、含み益の具現化への信頼が十分得られていないことがわかりました。生み出した価値に対して資本市場から適正な評価を得ることは、持続的な企業価値向上に不可欠です。新計画においては、価値の適切な具現化を通じて、ステークホルダーの皆さまからのより高い評価を得られるように行動していくことが、CEOとしての責務と考えています。

最後に

新計画は2019年4月から2028年3月までの9カ年計画となります。冒頭にお示ししたとおり、大きく変化していく社会環境を見据えた新たな価値の創造と、それを実現するための利益計画、資本政策といっ た仕組みづくりが新計画の根幹です。
 新計画の遂行を通して、中長期的に当社グループの企業価値がステークホルダーの皆さまから評価され、応援していただける企業グループでありたいと思います。引き続きご理解・ご支援のほど何卒よろしくお願い申し上げます。

2019年9月